Givenchy by Riccardo Tisci | ダーク・ロマンティシズムという革命

Givenchy by Riccardo Tisci | ダーク・ロマンティシズムという革命

リカルド・ティッシ期ジバンシィとは?黄金期と呼ばれる理由

2005年から2017年までジバンシィ(Givenchy)のクリエイティブ・ディレクターを務めたリカルド・ティッシ。
彼の12年間は、ブランドを再建し、ストリートとクチュールを融合させた“黄金期”として再評価されている。

本記事では、

  • ティッシ期ジバンシィの特徴
  • ダーク・ロマンティシズムとは何か
  • ロットワイラーやスター(★)モチーフの意味
  • なぜ2010年春夏が完成形と語られるのか

を解説します。


 

商談を終え、車が静かに流れる。

夕暮れの東京。
ガラス越しに街の灯りが伸びる。

ルシークは今日、いつもよりフォーマルだった。

細身のブラックスーツはサンローラン。
足元はベルルッティ。
バッグはいつものケリーデペッシュ。

助手席のアイリスも、今日は少し背筋が伸びている。
エルメスのワンピースに、シルクスカーフ。
品がありながら、どこか柔らかい。

少しだけ沈黙が流れる。


Iris
「……今日の商談、完璧でしたね。」

ルシークは前を見たまま、軽く笑う。


Ruseak
「相手が良かっただけだよ。」


アイリスは首を振る。


Iris
「違います。
最後の一言、あれで空気が変わりました。」

少し間を置いて。


Iris
「それと……ネクタイ。」

ルシークがちらりと視線を落とす。

黒地にスタッズのようなモチーフ。
どこか王族的で、しかしエッジがある。

やや細身。


Iris
「すごく、似合ってました。
今日のあなたに、ぴったりでした。」


ルシークは少し照れたように喉を鳴らす。


Ruseak
「今日こだわったトコ、気づいてくれてありがとう。」


Iris
「もちろん。
いつも見てますから。」

車内の空気が、ほんの少しだけ柔らぐ。

ルシークはその言葉の温度に気づかないまま続ける。


Ruseak
「これ、ジバンシィだよ。」


Iris
「……え?」


Ruseak
「2010年春夏。
リカルド・ティッシの思い入れの強い時代。」

アイリスの目がわずかに輝く。


Iris
「え、グッチでもエルメスかと思いました。」


Ruseak
「今日は大事な商談だったから。
だから強めのナロータイじゃない。
・・サンローランでもディオールオムでもない。」

少しだけ声が低くなる。


Ruseak
「リカルドティッシ期のジバンシィ。
俺が一番好きだったシーズンだ。」


車を車線変更させる。

ウィンカーの音が止まる。


アイリスは静かにネクタイを見つめる。

スタッズ。
スター。
どこか王族的で、どこか気品が漂う。

ティッシは
「ダークなロマンティシズム」と「ストリート」を融合させた男だった。

そのコードは、
★(スター)
スタッズ
チェック柄

ジバンシィを象徴するアイコンへと変わっていった。


Iris
「どうして……今日それを?」


ルシークはハンドルを大きく切りながら、さらりと言う。


Ruseak
「昔、仲間が付けてたんだよ。
どうしても欲しくて、ずっと探してた。」

一瞬だけ、視線が遠くなる。


Ruseak
「大事な時に付ける。
そう決めてる。」


アイリスはその意味を、少しだけ勘ぐる。

(大事な時……?
今回の商談のため……?)

胸の奥が、ほんのり熱くなる。


信号がちょうど赤になり停まる。静寂。

夜の静けさが、二人を包む。


Iris
「……ジバンシィって、
そんなに特別なんですか?」


ルシークは振り返る。

目が、少しだけ鋭くなる。


Ruseak
「特別だ。
あの時代、モードの定義を書き換えた。」


信号が青になる。

ここから――
ジバンシィの物語が始まる。



― ダーク・ロマンティシズムという革命

車はトンネルに差し掛かり
スポットライトだけが静かに浮かぶ。

ルシークは音楽のボリュームを少し下げ
液晶パネルに手を伸ばす。

アイリスはその動作を目で追いながら、ゆっくりと問いかける。


Iris
「どうしてティッシは、あそこまで支持されたんですか?」


ルシークは少し間を置く。


Ruseak
「彼は、ジバンシィを“再建”した。」


■ 1. 破産寸前から黄金期へ

2005年。
ジバンシィは迷っていた。

クチュールの伝統はある。
だが、現代との接続を失いかけていた。

そこに現れたのが、
リカルド・ティッシ。

彼の最大の功績は、
「伝統的クチュール」と「ストリート」を融合させたこと。

文献において彼の核心は――

  • ダーク・ロマンティシズム

  • 黒の美学

  • 宗教的アイコン

  • ジェンダーレスなシルエット


Ruseak
「彼は“ゴシック”と言われたが、本人は違うと言った。」


Iris
「ロマンティックで官能的、ですよね。」


Ruseak
「そう。
黒は怖さじゃない。
黒は、感情を削ぎ落とした純度だ。」


ティッシは「カトリック・ゴス」「アーバン・ゴス」と呼ばれた。
十字架や宗教的モチーフをランウェイに持ち込み、
漆黒の世界観を確立した。

だが同時に――

ショーツにレギンスを合わせ、
メンズにスカート的要素を取り入れ、
ラグジュアリーをストリートへ落とし込んだ。

それは今でこそ当たり前だが、
当時は革命だった。


■ 2. ロットワイラーとバンビの衝撃

アイリスが液晶に目を落とす。

 


Iris
「ロットワイラーは2011年秋冬でしたね。」


ルシークは頷く。


Ruseak
「“アーバン・マスキュリン”。
唸る犬のプリント。
あれは単なるグラフィックじゃない。」


ロットワイラーは、
“力の象徴”をハイファッションに昇華した。

それまでカジュアル扱いだったプリントTシャツを、
ラグジュアリーの中心へ押し上げた。

一方、バンビ。

可愛らしいキャラクターを
スプライス(繋ぎ合わせ)構造で再解釈。

女性的モチーフを、
エッジの効いたメンズが着る。


Iris
「まさに・・コントラストですね。」


Ruseak
「フェミニンとマスキュリン。
宗教とストリート。
高級とサブカル。
対極を混ぜるのがティッシだ。」


スター(★)モチーフも同様。
ネックラインに並ぶ星は、
ストリート的でありながら王族的。

“ギャング”と呼ばれた支持者たち――
マドンナ、ビヨンセ、キム・カーダシアン。

彼女たちは単なるセレブではない。
Givenchy #gangという文化圏を形成した。


■ 3. 12年という異例の任期

 

Iris
「12年……これって長いですよね。」


Ruseak
「今の業界では異例だ。」


2005年から2017年。
12年という長期政権。

破産寸前だったブランドを黄金期へ導き、
独自の世界観を確立。

その後、
2018年にバーバリーへ。

CEOマルコ・ゴベッティとの再タッグ。
次なる挑戦。


Iris
「再建して、去る。
潔いですね。」


Ruseak
「やり切ったんだろう。」


車内は静まり返る。


Iris
「でも……どうして、
あなたは2010年春夏が一番好きなんですか?」


ルシークは微かに笑う。


Ruseak
「完成形だったから。」


スター。
スタッズ。
チェック。

ストリートの熱量と、
王族の品格。

ティッシのコードが、最も美しく混ざった瞬間。


「モードは強さだけじゃない。」

そう言うように、
ルシークはネクタイを指でなぞる。


Ruseak
「ティッシは、
ラグジュアリーを街に下ろした。」


静かな余韻。

 


― スターとスタッズ、その夜

車を降り、
二人は店へ戻る。

シャッターは半分降りているが、
店内にはまだ灯りが残っていた。

そこに立っていたのは――ハル。

そして、彼が着ていたのは。

唸るロットワイラーが全面にプリントされたTシャツ。


Haru
「お疲れさまです!
その顔は商談うまくいったんですよね?」


ルシークは軽く目を細める。


Ruseak
「アイリスがうまくフォローしてくれたからな。」


アイリスは後ろで微笑みながら首を振る

Haru
「へぇ~。
今度は俺も連れてってください!」


Iris
「ハルの服。ロットワイラーだよね?帰りにちょうど話してたとこ」


Haru
「え、気づいてくれてありがとうございます!そうなんです。
でもストリートなんだけどなんかラグジュアリーさもあって。
そこがずるい。」


ルシークは小さく笑う。


Ruseak
「アイリスを、ジバンシィのコーナーに連れていってやれ。」


ハルは少し誇らしげに、
アイリスを招き入れる。


そこには――

・スターのスタッズが張り巡らされたレザーキャップ
・黄色のスタッズブレスレット
・スタッズで覆われたリュック
・スタッズ柄のパーカー
・スタッズ柄のサルエルパンツ
・首元にスターが並ぶTシャツ
・赤のチェックバンダナ風デザイン
・ペイズリーのグラデーション
・ギャング風タトゥーモチーフ
・不気味なピエロ
・極楽鳥花
・不穏なマリア

まるで小さな“ダーク・ギャラリー”。


Iris
「え、これ全部Givenchy?」


Haru
「そうなんです。
ロットワイラーも、バンビも、
スターも、全部ティッシのコード。」


ルシークが一歩前へ出る。


Ruseak
「ロットワイラーは“パワー”。
バンビは“コントラスト”。
スターは“アイコン”。
宗教モチーフは“精神性”。」


ハルは苦笑する。


Haru
「やっぱり、敵わないな……」


ルシークはスタッズのリュックを持ち上げる。


Ruseak
「ティッシは、
“売れるもの”を作ったんじゃない。」


スタッズのキャップを指でなぞる。


Ruseak
「“欲しくなるもの”を作った。」


アイリスがスターTシャツを胸に当てて目を閉じる。


Iris
「ラグジュアリーなのに、
どこかストリートの匂いがする。」


Ruseak
「それがラグジュアリー・ストリートだ。」


ハルが自分のロットワイラーをピンと張って見せる。


Haru
「今また、こういう時代来そうじゃないですか?」


ルシークは少し考え、言う。


Ruseak
「来るだろうな。
モードとストリートは、また交差する。」


沈黙。


腕時計を見るともうすぐ20時、ルシークがぽつりと言う。


Ruseak
「そろそろ・・飯、行くか。」


ハルとアイリスは顔を見合わせる。

(今日、なんかあったっけ?)


ルシークはバッグを持ち上げながら、さらりと言う。


Ruseak
「アイリスがうちに来て、今日で一年だろ。お祝いしよう。」


アイリスの心臓が、止まりかける。

ジバンシィのネクタイに焦点を合わせる。


Iris
「……覚えててくれてたんですね。」


Ruseak
「今思いだしたんだ。」


ハルがニヤニヤする。


Haru
「俺、邪魔じゃないですよね?」


ルシークは振り返る。


Ruseak
「お前も来い。」


三人は店を出る。

スターとスタッズの光が、
静かに夜へ溶けていった。

 

完。

 


 

まとめ|ティッシ期ジバンシィはなぜ特別なのか

リカルド・ティッシ期のジバンシィは、単なるデザイン革新ではなかった。

  • 伝統的クチュールの再解釈
  • ストリートと宗教的モチーフの融合
  • ロットワイラーやスターなどの強力なアイコン戦略
  • 12年という異例の長期政権による世界観の確立
  • 現在のラグジュアリー・ストリートの原点は、この時代にあると言っても過言ではない。

Givenchyを語るなら、ティッシ期を避けて通ることはできない。

それは、モードが“街に降りた瞬間”だったから。

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