エディが変えたもの | 時代のスタイルを更新
Share
夜の店内。
照明は少し落としてある。
トルソーに掛けられた一本のショートテーラードジャケット。
黒。
無駄のないシルエット。
肩はシャープで、着丈はやや短め。
ルシークはカメラを構え、
ディオールオムのショートテーラードを静かに撮影している。
シャッター音が、静かな空間に響く。
そこへ、アイリスが近づく。
Iris
「エディ期のディオールオム、好きですよね〜。」
ルシークはカメラを下ろし、少し笑う。
Ruseak
「好きだね。というか、尊敬してる。」
アイリスはトルソーの前に立ち、
ジャケットのラペルを指でなぞる。
Iris
「何がそんなに特別なんですか?」
ルシークは一歩引いて、全体を眺める。
Ruseak
「シルエットだよ。」
■ エディが確立した“細身の革命”
エディがディオールオムを手がけた2000年代初頭。
当時のメンズファッションは、
まだゆとりのあるシルエットが主流だった。
そこに登場したのが――
極端に細い、シャープなシルエット。
肩はコンパクト。
ウエストは絞られ、
パンツは驚くほど細い。
Iris
「今でこそ細身は当たり前ですけど、当時は衝撃だったんですよね。」
Ruseak
「そう。“細い”ってだけじゃない。
身体を服に合わせる発想を提示したんだ。」
ルシークはラックから一本のデニムを取り出す。
黒に近いインディゴ。
タイトなライン。
Ruseak
「これ。ディオールのスキニー。」
Iris
「綺麗…」
Ruseak
「今では当たり前の“スキニー”だけど、
メンズでここまで極端に細くしたのはエディが決定的だった。」
■ なぜスキニーは革命だったのか
それまでのメンズは、
体型を“隠す”ための服が多かった。
でもエディは違った。
Ruseak
「体型に合わせて服を選ぶんじゃなくて、
着たい服に似合う自分になれって言ってるみたいだった。」
アイリスは少し考える。
Iris
「だから、あの時代のロックキッズたちが熱狂したんですね。」
Ruseak
「うん。あれは単なる流行じゃない。
“身体意識”を変えた。」
エディは、メンズの身体を細く、美しく、線として見せた。
それは装飾ではなく、削ぎ落としの美学。
■ Saint Laurentでの“ロゴの再定義”
ルシークは今度は一枚のシャツを取り出す。
ベイビーキャット柄の裏の首元に白いボックスで黒文字のロゴ。
“SAINT LAURENT PARIS”
Iris
「これもエディですよね。」
Ruseak
「そう。」
2012年。エディがイヴ・サンローランに就任したとき、
彼はブランド名から“Yves”を外した。
“Yves Saint Laurent”から
“Saint Laurent”へ。
Iris
「大胆ですよね。」
Ruseak
「ブランドの歴史を否定したわけじゃない。
再定義したんだよ。」
ロゴは、単なる文字ではない。
ブランドの思想そのもの。
エディはそれをミニマルに削ぎ落とし、
現代的な緊張感を与えた。
■ ルシークがエディを尊敬する理由
Iris
「結局、ルシークにとってエディの何が一番なんですか?」
ルシークは少し考えてから答える。
Ruseak
「流行を作ったことじゃない。」
Iris
「じゃあ?」
Ruseak
「スタイルを更新したこと。」
細身のシルエット。
スキニーの確立。
ブランドロゴの再定義。
どれも“表面的な流行”に見えるかもしれない。
でも本質は違う。
Ruseak
「エディは“身体と服の関係”を変えた。
そして“ブランドの見せ方”も変えた。
だから今も影響が残ってる。」
アイリスは静かに頷く。